陶に映す「悠久への誘い」
緑ヶ丘美術館の2023年新春の展覧会は、─荻野萬壽子 練上の世界─「悠久への誘い」展から幕開けします。奈良を拠点に「練上」(ねりあげ)という特殊な技法を駆使して表現する陶芸家・荻野萬壽子氏の作品を紹介いたします。
昨年に引き続き、当美術館の地元・奈良で活躍されている陶芸家の先生方に焦点を当てた展覧会「まほろば陶」の企画です。
本年は、荻野氏が陶芸を始めてから40年。今までに数々の作品を発表されてきましたが、その中からこの度は、荻野氏独自の作風で個性ある「練上」作品を皆様方にご覧いただきます。抽象的でありながら有機的な文様は、何種類にも変化させて作った色土を幾重にも重ねて表現していく特殊な技法です。夢のような風景を荻野氏は、「悠久への誘い」と名付けました。まさしく奈良・まほろばの風景に相応しい世界観を醸し出されています。
練上技法への愛着と研究
荻野氏の工房は、奈良・北葛城の閑静な一角にあります。庭には玄関から続く小径があり、それを取り囲むように野の草花たちが咲きそろい、飛び石が工房へと導いてくれます。蘭の花や藤の花、芙蓉や紫陽花が彩りを際立たせています。それらの花弁をよく見ると、どこかで見た風景と繋がります。それは荻野氏の練上作品の文様にたどり着くように感じます。花の色を蓄えて流れる葉脈は、作品そのものに見えてきたりします。
小径の奥にある工房には、大きな作業机と室内を囲むように道具棚があり、棚には色を調合する顔料瓶がずらりと並び、何種類ものタタラ板や差し(尺)やヘラ、成形のための型枠が見えます。荻野氏の<練上技法>のための一種独特な陶芸用の道具たちが目を誘います。創作現場を取材させていただいて、その作業工程の多さに驚くばかりです。複雑で綺麗な文様がどのようにして誕生したのか。展示作品をじっくり興味を持って見ていただくと、今まで気づかなかった荻野作品の魅力を発見していただけると思います。お楽しみいただければ幸いです。
緑ヶ丘美術館 館長 菅野一夫