萩焼の陶工の家に生まれ、幼少の頃から土に触れて育った渋谷英一。
伝統的な萩焼に崇敬と憧憬を抱きながら、創造的な表現への衝動から伝統の枠を超えた独自の道を切り拓く。
やわらかく雄大な動きと研ぎ澄まされた繊細さが織りなす、静謐を湛えた無彩色の「黒彩器」。
重層的な土の色と質感が醸し出す退廃美を端正なフォルムに纏わせた「地乃器」。
一段一段、積み上げていく手捻りの技は、一日一日、己と向き合う作家の精神を表している。
そこで磨かれた感性と造形力が生み出した対照的な2つの作品シリーズを中心に、萩の地で革新に挑む渋谷英一の作陶をご高覧ください。
近代日本の幕開けとなった幕末・明治維新を牽引する偉人たちを輩出した、山口県の萩。その進取の気風を育んだ歴史が薫る地で生まれ育った渋谷英一先生は、伝統的な萩焼の枠を超えたモダンな作品を制作されている気鋭の陶芸家です。
萩焼は、江戸時代の萩の藩主・毛利輝元が開いた御用窯が歴史の始まりで、「一楽、二萩、三唐津」という言葉が生まれるほど、侘び数寄の茶人に愛されたやきもの。渋谷英一先生の祖父、渋谷泥詩氏はその萩焼の陶工として名を馳せた人物でした。物心ついた頃には工房で土遊びをしていたという渋谷英一先生は、20代半ばから祖父のもとで本格的に修業を始めます。「教わったことといえば、ろくろのスイッチの入れ方くらい」と冗談まじりに話すほど、一日中仕事を続ける祖父の背を追い、その姿を見ながら作陶を学ぶ厳しい下積みでした。渋谷英一先生の仕事に対するストイックで真摯な姿勢は、この修業時代に身に付いたものなのでしょう。
萩焼の技術の習得に励んでいた渋谷英一先生は、次第に自身の内側から湧き起こる創造的な表現を渇望するようになり、30歳を迎える頃、自らの創作に打ち込むため独立することを決意されました。伝統的な萩焼に崇敬や憧憬を抱きながらも、それをアカデミックに追求する道ではなく、より自分の感性に素直に従った表現に挑みたい。その強い想いが修業時代に培った技術とともに発露した作品「黒彩器」が公募展で受賞したことを皮切りに、以後、着実に評価を高めてこられました。そして近年、「黒彩器」とは対照的な作風とも言える「地乃器」を創作。2つのシリーズを軸に据えることで、その中心にいる作家の本質を多面的に表現していくことができるのだと言います。
渋谷英一先生は、萩焼の基本であるろくろ成形とともに、手捻りでの成形に取り組むなど、「作りたいもの」を追求し新たな表現や技法に挑んでおられます。あくなき創造性への探究心によって、伝統の枠を超えた全く新しい命が吹き込まれた表現を生み出してきたのです。そして、このような進化こそが伝統工芸の真髄と言えるのではないでしょうか。
窯元の家に息づく精神と、今を生きる作家としての現代的な感性が協奏し、生まれ出る革新的な作品をご高覧ください。
緑ヶ丘美術館 館⻑ 菅野⼀夫
緑ヶ丘美術館でのみの限定販売となります
<数量限定>一筆箋 30枚綴り 2種
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